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塾長ダイアリー「精神一到何事か成らざらん」

 …塾長として長いキャリアの中で、思ったこと・学んだことを綴ります…

 

Nくんは中3の時、母親といっしょに夏期講習の申し込みにきた。

成績の状況を聞くと、中学でもトップクラスであり、志望校は地元の進学校であった。

そのあと、そのまま通常の塾の授業にも継続して、高校受験まで当塾に通っていた。

その年は、その高校の倍率も非常に高かったが、無事に合格した。

 

Nくんから電話がかかってきたのは、それから2,3ヶ月後のことだった。

「高校の数学がわかりません。 かなりピンチです。 また、教えて下さい。」

とのこと。

 

会って話を聞いてみると、つい最近高校で行われた数学の試験が、クラス40人の中で40位であった、とのこと。

つまり、ビリであった。 

中学のとき優秀だった彼でも、高校の数学は厳しいわけか、と思った。

志望大学は? と聞いてみると、北海道の教育大学に行きたい、とのこと。

北大とか狙わないの? と、聞いてみると、

「とてもじゃないけど、無理です。」

そう、言っていた。

当時、当塾に通う高校1年生は彼を入れて3名だった。

高校で使ってる教科書(数研出版)と傍用問題集(数研出版の4STEP)を使って数学を教えていた。

(その方針はいまも変わらない。やらなくてはいけない教材が増えすぎるのは避けたいのだ。)

 

最初のころは、この3名の学力は同じくらいだったはず。

特に彼が突出していたわけでもない。

この教科書や4STEPを解かせても、難しい、といっていた。 

学校の数学の授業も試験も、難しい、点数が取れません、といっていたはず。

しかし、数ヶ月が経ち、だんだんと彼に変化が現れる。

教科書の問題も、4STEPの問題も、大体解けるようになってきた。

 

1年の終わりころには、英語も取り組んでみるか、ということで、

「即戦ゼミ」という英語テキストと、「Duo3.0」という英単語熟語集を暗記していくことにした。

この2冊のテキストをワープロで日本語訳をつくり、それに対する英文を書かせる、という

確認テストを毎回塾に来るたびに行っていった。

他の二人はこの暗記に苦戦しているなか、彼はどんどんと暗記をしていく。

 

2年の6月に英検2級を受け、そして合格。

このころ、再度、志望大学を聞いてみた。

「北大を目指そうと思います。」 と、そう言っていた。

いい目標だな。

この数ヶ月の勉強の手ごたえ、成績の伸びから考えると、十分可能性あるだろうな、

と、そう思った。

 

しかしその後、彼は僕が考えている以上の「怪物」となっていく。

 

高校2年の夏か、秋くらいだったか。

彼はこう言った。

「Duoは全部暗記しました。

これからは、予告なしにランダムにチェックテストを出してください。」

 

 

え? 

このテキストは、全部で560本の英文、1572語の単語、997語の熟語、

全部で45セクションで構成されている。

 

1セクション平均12~13文で構成されている。

レベルは英検準1級対応とされており、東大などの難度の高い大学の受験生に評判のあるものだ。

それを、全部暗記したから、45セクションのうちのどれでもランダムに出してテストしてくれ、だって?

 

そんなことできっこない。 

ところが、毎回塾に来るたびに2セクションずつ、

もちろんどこを出すかなど予告せずにやらせても、完璧に書く。 スペルミスもしない。 

 

実際、英文の暗記というものは、やってみるとわかるが、

複数形のsがつくかどうか、とか、rとlのどちらだったか、など必ず迷うものだ。

 

しかし、彼はミスをしない。  少しも。

Nくんが「全部暗記しました。」というときは、ほんとに完璧に暗記したとき、なんだな。

 

数学に関しても、教科書や4STEPで解けない問題はなくなっていった。

このころ、また、志望大学を聞いてみる。

 

「京都大学の法学部を目指したいと思います。」

彼はそう言った。

 

彼は、センター試験直前の高3の12月まで塾に来ていた。

いま振り返っても、不思議なのだ。

なぜ、彼がずっと当塾に通っていたのか。

なぜそう思うかというと、高2の秋くらいから、もう、

彼の学力は、英語も数学も、僕よりずっと上だったからだ。

情けないようだが、事実である。

教えることなど、もう何もなかったのだ。

 

Duoに関しては僕自身も勉強してみたが、

完璧に暗記した、という状況には遠かった。

 

数学に関しては、そのころからは、教える、というより、

数学の問題をいっしょに解いて、お互い照らしあわせて確認した、みたいなやりかただった。

塾長 「おい、どうだい? 解けたかい? この問題、難しくないか?」

 

Nくん「ええ、なんとかできました。 答えは、これでいいですか?」

塾長 「ああ、それでいいみたいだね。どうやって解いたの? 教えてよ。」

Nくん「これはですね・・・」

 

こんな感じだった。

どっちが先生で生徒かわからない。

でも、まあ、そういう日々でも、少しは彼の役にたっていたのだろう、

と、そう信じたい。

 

センター試験当日、偶然にも通勤で使っている駅で彼に会った。

試験から帰ってきたところだった。

「どうだった? 手ごたえは。」

「まずまず、だったと思います。」

彼がまずまず、といってるんだから、まずまず、いい出来だったのだろう。

 

そして、出願を京都大学法学部に決め、受験に挑んだ。

結果は、見事に合格。

おめでとう!

 

月日は流れ、久しぶりにNくんから電話があった。

「先生、司法試験、合格しました。」

おめでとう!

 

生徒から学ぶことはたくさんある。

彼は常に謙虚であり、自分が勉強ができる、なんてそぶりなど微塵もみせなかった。

だれにでも優しく、そしてフェアな考えかたをする人間である。

これから司法修習生として学び、そして法律の世界で仕事をしていくことになる。

きっと、裁判官、検事、弁護士、どの道に進んでも、力を発揮してくれると思う。

いままで積み重ねて来た努力の日々に、心より拍手を送りたい。

そして、これからのきみの人生が、輝くものになることを祈りたい。 

 

以下、彼の大学合格時に書いてもらったレポートを紹介したい。

これから、大学を目指すみなさんへの勇気付けになれば、と思う。

みなさん、こんにちは。

この度は幸運にも京都大学法学部に合格することができて、

この体験記を書かせていただくことになりました。

この中で自分が受験で得たものをみなさんに伝えられるように

書いていこうと思います。

 

まず、受験勉強をするにあたって必要なもの、それはやる気ですね。

では、そのやる気はどうやって出したらいいのか。

目標を持つことです。

もちろん、将来的な目標を持つことが一番でしょう。

しかし、自分の確固たる将来の夢なんて、高校生くらいでは持っていないと思います。

そういう場合は場当たりでいいので、何か目標を決めてください。

 

例えば、「次の模試では、学年20位以内に入ってやる!!」

みたいなものでも十分です。

それが達成できたら、次は10位、5位、3位、1位、のように、

目標を上げていけばよいのです。

学力と勉強時間は比例するものです。

仮に、(学力)=y、(勉強時間)=x、とおくとすると、

y=ax (a>0)が受験の世界では成り立つのです。

頭がよい人というのは、その係数aが非常に高い人です。

だからといって、勉強をおざなりにしてしまうと、学力は上がらない。

逆に、a>0である以上は、頑張ればだれでも成績が上がるということです。

私は高校に入って一番最初の定期テストの数学でクラス40位をたたき出してしまい、

このままではまずい、と思い、この塾に入りました。

そして、塾長の指導のもと、一年後の数学の模試で学年1位、その次の模試では英語も学年1位、

になるまでに成長することができました。

先生には非常に感謝しています。  本当にありがとうございました。

暗記がきつい時もあるかもしれません。

しかし、多少の暗記は勉強につきものです。

Duoや即ゼミはさぼらずに、しっかりと全文暗記してください。

 

それを暗記し終わって、ようやく受験勉強を始められる段階なのです。

『精神一到何事か成らざらん』

非常に有名な言葉ですが、私の好きな言葉の一つです。

一年のときに完全に「落ちこぼれ」ていた私も、

頑張って大学に合格することができました。

 

みなさんには、もっと更なる可能性が秘められているはずです。

おそらくは人生で最初で最後の大学受験、悔いの残らぬように努力して、

ぜひ、志望校に合格してください。